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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10841号 判決 1980年10月31日

原告(反訴被告) 遠藤眞

右訴訟代理人弁護士 荒木孝壬

右訴訟復代理人弁護士 畑中耕造

被告(反訴原告) 遠藤寛

右訴訟代理人弁護士 岡村顯二

同 矢島宗豊

右訴訟復代理人弁護士 小又紀久雄

主文

一  本訴原告の請求をすべて棄却する。

二  本訴被告所有の東京都中野区南台二丁目七〇番一六宅地三六三・六三平方メートル(登記簿上表示面積)と本訴原告所有の同都同区南台二丁目七〇番一七宅地二三一・四〇平方メートル(登記簿上表示面積)との境界は、別紙第一図面の(ロ)、(ハ)の各点を結んだ直線であることを確定する。

三  訴訟費用は、本訴・反訴を通じて本訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  本訴原告(反訴被告)が別紙物件目録一記載の土地につき、所有権を有することを確認する。

2  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録二記載の建物を収去し、右土地を明渡せ。

3  訴訟費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  主文第一項同旨

2  訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  主文第二項同旨

2  訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  本訴被告(反訴原告)所有の東京都中野区南台二丁目七〇番一六宅地三六三・六三平方メートルと本訴原告(反訴被告)所有の同都同区南台二丁目七〇番一七宅地二三一・四〇平方メートルの境界は、別紙第一図面(イ)、(ニ)の各点を結んだ直線であることを確定する。

2  訴訟費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有権を交換により本訴被告(反訴原告、以下「被告」という。)から取得した。すなわち、原告と被告との間において、昭和四七年五月六日、原告所有の東京都中野区南台二丁目七〇番一六所在の居宅と、被告所有の同都同区南台二丁目七〇番一〇ないし一四及び同番一七の土地(但し、同番一四は私道で、その余は宅地)とを、交換する旨の合意が成立した(以下「本件交換契約」という。)が、本件土地は、原告が取得した右同番一七の土地(以下「本件一七の土地」という。)に含まれるものである。このことは、右交換契約において、本件一七の土地とは、従前、被告が訴外横尾矗(以下「訴外横尾」という。)に賃貸していた土地を意味するものであることが、原、被告間に了解されていたところ、その範囲は、右本件交換契約前に、被告と右訴外横尾及び訴外横尾純義との間の東京高等裁判所昭和四四年(ネ)第一、九三三号事件において成立した裁判上の和解により確定され、これによれば、本件土地もその範囲内にあることによって明らかである。

2  被告は、本件土地が同人所有の東京都中野区南台二丁目七〇番一六の土地(以下「本件一六の土地」という。)に含まれると主張し、原告の本件土地に対する所有権を争うものである。

3  被告は、本件土地上に別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、本件土地を占有している。

4  よって、原告は、被告に対し、

(一) 本件土地につき、原告が所有権を有することの確認

(二) 本件土地所有権に基づき、本件建物を収去し、本件土地の明渡

を求める。

二  本訴請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実のうち、本件一七の土地を原告が所有することは認め、その余はすべて否認する。本件土地は被告所有の本件一六の土地に含まれているものである。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

4  同4の主張は争う。

三  反訴請求原因

1  本件一六、同一七の各土地は、いずれももと訴外亡遠藤源六(以下「訴外亡源六」という。)の所有であったが、同人が昭和四六年五月一三日死亡したので、原、被告を含む訴外亡源六の相続人間の遺産分割協議の結果、本件一六の土地を被告が、本件一七の土地を原告がそれぞれ所有権を取得した。

2  ところが、右両地の境界には、従前から境界柱等の設置がなく、その境界が判然としなかったので、昭和四七年五月六日、原告と被告とが前記遺産分割協議をした際、右両地の境界は公簿による旨合意した。

3  そこで、被告において、土地家屋調査士に依頼して、本件一六の土地及び本件一七の土地を実測させたところ、その面積合計は、登記簿上の表示面積合計(五九五・〇三平方メートル)よりも三二・九四平方メートル多い六二七・九七平方メートルあったので、右縄延び分を右二筆の土地の公簿上の表示面積に従って、本件一六の土地三八三・八二平方メートル(公簿上三六三・六三平方メートル)、本件一七の土地二四四・一六平方メートル(公簿上二三一・四〇平方メートル)と按分し、別紙第一図面(ロ)、(ハ)の各点を結ぶ直線をもって境界とした。

4  ところが、原告は、右境界は別紙第一図面(イ)、(ニ)の各点を結ぶ直線であって、前記本件土地三三・三四平方メートルが原告所有の本件一七の土地に含まれると主張し、本訴を提起した。

5  よって、右両地の境界を確定する必要があるので、反訴請求の趣旨記載のとおりの境界の確定を求める。

四  反訴請求原因に対する原告の認否

1  反訴請求原因1の事実のうち、訴外亡源六が昭和四六年五月一三日死亡したこと及び本件一六の土地を被告が、本件一七の土地を原告がそれぞれ所有していることは認めるが、その余は否認する。原告が本件一七の土地の所有権を取得したのは、本訴請求原因1のとおり、原、被告間の交換契約によるものである。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、一七の土地の面積が公簿上の表示と異なることは認めるが、その余は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の主張のうち、両地の境界を確定する必要があることは認めるが、その余は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が本件一七の土地を、被告が本件一六の土地をそれぞれ所有していることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の本件交換契約の成否及びそれが成立していたとすれば、それによって原告が取得したのは訴外横尾借地(本件土地は、後記のとおり右訴外横尾借地には含まれるが、本件一七の土地には含まれない。)であったかどうかについて検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告の養親であり、かつ、被告の祖父である源六は、昭和一九年以前に、同人の長男源太郎及び次男乾二に対し、同人所有の別紙第二図面記載の各土地につき、同図面のイ、ロを直線で結んだ線を境とし、東側の土地を源太郎に、西側の土地を乾二にそれぞれ贈与した。右図面に表示された「33―16」,「33―17」の各土地が、それぞれ本件一六、同一七の各土地である。その後、昭和一九年ころ、乾二が死亡したので、同人が源六から贈与を受けた右各土地の所有権は、乾二の子である被告が相続により取得した。なお、右別紙第二図面表示のイ、ロを直線で結んだ線より西側にある「33―10」、「33―11」、「33―12」、「33―13」、「33―15」と表示された各土地は、現在の東京都中野区南台二丁目七〇番一〇ないし一三、一五及び二〇に該当し(二〇の土地は、「33―12」か「33―13」のいずれかの土地から分筆されたものである。)、同図面中、「33―10」、「33―11」、「33―12」、「33―13」と「33―15」、「33―16」、「33―17」とにはさまれた空白部分は現在の東京都中野区南台二丁目七〇番一四(私道)に該当する。

2  源六は、昭和四六年五月一三日死亡した。同人は、本件一六の土地上に居宅を所有していたが、右居宅は同人の家名を継承する原告に遺贈した。その結果、被告の所有地である本件一六の土地上に、原告が右居宅を所有することになった。そこで、被告は原告に対し、被告の相続財産と原告所有の右居宅との交換を申し出た。そして、原、被告間で種々折衝を重ねた結果、昭和四七年五月六日、原告所有の右居宅と被告所有の前記東京都中野区南台二丁目七〇番一〇ないし一四及び一七の土地(但し、一四は前記のとおり私道で、その余は宅地)とを交換する旨の合意が成立した。

3  右交換契約によって、原、被告がそれぞれ取得すべき土地の範囲は、地番を基準にして定めた。それに土地の境界も公簿によって定める旨の約定がなされた。本件一六の土地と本件一七の土地も従来から境界が明確でなかったので、その境界も当然右基準によって定められることになっていた。

以上のとおり認めることができる。原告は、本件交換契約において、本件一七の土地とは、前記訴外横尾に賃貸していた土地を意味するものであることが原、被告間に了解されていたと主張する。なるほど、《証拠省略》によれば、訴外横尾借地というのは、被告が本件交換契約以前に訴外横尾に賃貸した土地で、その範囲は、被告と訴外横尾との間に昭和四六年五月八日成立した裁判上の和解により、別紙第一図面の(イ)、(ホ)、(ヘ)、(ニ)、(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地であることが確定され、右訴外横尾借地部分には本件土地も含まれていること、そして、原、被告間の本件交換契約によって原告が取得すべき本件一七の土地について原、被告間に交わされた覚書(以下「本件覚書」という。)には、原告が、「……同一七(横尾借地)……を所有する。」と記載されていることがそれぞれ認められるので、右事実によれば、原告が本件交換契約により取得する本件一七の土地とは、原告の右主張のとおり、被告と訴外横尾との間に成立した裁判上の和解により確定された右訴外横尾賃借地であると解する余地がないわけではない。ところが、一方、前記被告と訴外横尾との間の和解調書添付の第二図面には、訴外横尾賃借地は「中野区南台弐丁目七〇番地ノ一六ノ一七」と記載されているので、少くとも、右和解の当事者であった被告においては、訴外横尾賃借地には登記簿上の中野区南台二丁目七〇番一六の土地の一部が含まれていることを知っていたことが当然推認されるから、交換契約において右訴外横尾賃借地を原告が取得する旨合意するのであれば、「横尾借地(地番一六、一七)」等と表現するのが自然であること、本件覚書において、最初にまず地番が記載され、これに続いて「横尾借地」という文言が括弧書きされているというその体裁自体によっても、原告が取得すべき土地の範囲は地番を基準にして定められるものであって、「横尾借地」という括弧書きの文言は、その地番の土地を特定するための補助的指標にすぎないと解する方が自然であること、《証拠省略》によれば、被告は、甲第三号証添付の第二図面と同一内容の図面を用いて原告が取得すべき一七の土地の説明を行ったことが認められ、その際、被告が原告に対し、南北いずれにずれるという説明であったかについては双方にくい違いがあるものの同図面の(イ)、(ハ)を結んだ線(別紙第一図面の(イ)、(ニ)を結んだ線に該当する。)から、境界がずれる旨の説明をしたことが認められる。ところが、仮に、原告が取得すべき一七の土地が原告主張の訴外横尾借地を指すものとすれば、本件一六の土地との境界は、当然甲第三号証添付の第二図面の(イ)、(ハ)点を結んだ直線であることが明白であるから、このような場合に、被告において、右のように境界が右(イ)、(ハ)の各点を結んだ直線からずれる旨の説明をすることはあり得ないと考えられること、本件交換契約時においては、訴外横尾借地は、本件第一図面の(ロ)、(ハ)点より南下した形で縮少変更されていたこと、本件覚書第四項において、「境界は公簿による」と定められていること等を総合考慮すれば、原告が取得すべき本件一七の土地の意味が当初の訴外横尾借地全部を指称するものであるとは到底解し得ず、前記認定のとおり、地番一七の土地を原告において取得する旨の合意があったにすぎないものと認めざるを得ない。なお、原告本人の供述中には、原告が交換によって取得したのは前記訴外横尾借地である旨の供述部分があるが、これは、前記認定の諸事実に照らし、そのまま採用することはできない。むしろ、前記認定の諸事実及び後記認定のとおり、本件一七の土地に本件土地が含まれていない事実を通観すれば、本件交換契約により本件土地の所有権を取得した旨の原告の供述は、同人の思いすごしというほかはない。すなわち、原告が本件交換契約によって取得したのは右認定のとおり訴外横尾借地ではなく、本件一七の土地であり、しかも、同土地には後記のとおり本件土地が含まれていない以上、本件交換契約により原告が本件土地の所有権を取得するに由ないところ、右原告本人の供述によれば、原告は被告の懇請により本件交換契約に応じたものであるが、本件土地が本件一七の土地に含まれていなければ、同土地には建築基準法上建物を建築することは不可能であることが後に判明した。このように、建築不可能な土地と交換させられた原告の心情はわからないわけではないが、本件土地の権利の帰属を定めるとなれば、やはり、右のようにいわざるを得ない。被告本人の供述のうち、前記認定とくい違う部分も採用することができない。他に、前記認定を動かし、本件土地所有権の取得に関し、原告の主張事実を認めさせるに足りる証拠はない。

三  次に、原告が本件交換契約によって取得した本件一七の土地に本件土地が含まれるかどうか検討する。右認定の事実によれば、原告が本件交換契約により所有権を取得した本件一七の土地は、東京都中野区南台二丁目七〇番一七の宅地であって、右一七の土地は、同土地と隣接する本件一六の土地との境界線以南の土地であることが明らかであるので、右両地の境界線について判断する。

《証拠省略》を総合すると、本件一六の土地と本件一七の土地とは、従前、両地の所有者が同一人に帰属していたこともあって、その境界を示す境界標柱等の設置は全くなく、境界は不明のままであった。右両地の登記簿上の合計面積は五九五・〇三平方メートルであるのに対し、実測上の合計面積は右登記簿上の面積を超過し、両地の間に三二・九四平方メートルの所謂縄延び分が存することが認められる。このように、相隣接する土地の境界線が不明の場合には、右境界は右縄延び部分を登記簿上の面積に応じ、両地に按分するのは勿論のこと、特段の事情がない限り、両地の両側境界線の長さに按分して二基点を定め、それを直線で結んで境界を劃定すべきものといわなければならない。このようにして、本件両地の境界線を実地につき按分するときは、本件一六の土地と本件一七の土地との境界は主文掲記の如く別紙第一図面の(ロ)、(ハ)の各点を結んだ直線であるというべきである。そして、右事実によれば、本件土地は本件一七の土地に含まれていないことが明らかである。

四  右事実によれば、結局、原告は、本件交換契約によって、本件土地の所有権を取得しなかったものといわざるを得ない。

五  原、被告間に、本件一六の土地と本件一七の土地との境界について主張のくい違いが存することは当事者間に争いがない。

六  以上の事実によれば、原告の被告に対する本訴請求はいずれも理由がないことが明白であるから、これをすべて棄却することとし、他方、被告の反訴請求については、被告所有の本件一六の土地と原告所有の本件一七の土地との境界が別紙第一図面の(ロ)、(ハ)の各点を結んだ直線であることを確定し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉盛雄)

<以下省略>

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